ゼミ論文・卒業論文の進め方(2024年度版)

演習1(2年生)と演習2(3年生)では最後にゼミ論文を書き、演習3(4年生)では卒業論文を書きます。これら論文執筆の進め方について説明します。

基本方針

次の事項を守って実行していれば、「論文が書けない」「提出したのに落とされた」といったことはありません。少しでも困ったことがあれば、ゼミのDiscordを使って連絡ください。

  • 授業中の過ごし方
    • グループワークの回では、自分のグループの議論や制作に積極的に関わる。
    • 個人研究について触れる回では、自分の研究について議論する。他者の研究についての議論に参加する。
    • 研究の進捗報告を定期的に行う。それ以外でも、求められたらすぐに報告できるように、普段から書き留めている。
  • 授業外での進め方
    • 授業中に指摘された課題や示されたアイディアを深める。
      • 煮詰まってしまった場合は、教員に別途相談する。
    • 研究に必要な制作を進める。
      • 分からなくなったりできなくなったりしたら、すぐに教員に相談する。
    • 先行研究を探して読む。
      • 見つからなかったり合っているか不安になったら、すぐに教員に相談する。
      • 内容の理解を確認するためにも、研究報告の際には読んだ論文について触れるようにする。
    • 文章を書き溜める。
      • 授業中の研究報告の資料は、文章として残すことを強く推奨している。
      • 考えたことや思いついたこと、授業中・授業外で他者と議論したときに分かったことや気づいたことをメモする。その場は単語程度で構わないが、時間を取って文章化しておくと良いだろう。
      • 報告資料とそれをもとにした議論の成果を別途配布している論文作成ワークシートに記入や修正していく。
      • このワークシートの内容をつなぎ合わせていくだけで、最低限の論文が書けるようになっている。

多くの学生は、初めての論文執筆がゼミ論文・卒業論文になるはずです。分からなくて当然ですし、不安になるのは仕方ありません。研究を進める中で、長期間の延々と続く議論や修正の繰り返しが続くと、進んだ実感がないばかりか不毛に感じることさえもあるかもしれません。しかし、ときにはそういった苦痛の期間もあってそれを乗り越えて進めるのが研究で、それを経て完成させるのが論文です。そのような期間を通じて、研究に留まらない世界の見方や説明の仕方を身につけることができるはずです。卒業後にも十分に活かせるスキルです。

研究を進め方

基本的な考え方

論文の執筆は一人でするものではありません。教員との議論を通じてブラッシュアップして進めるものです。そのため、日々の定期的な議論の場を逃さず有意義に使うことが大切です。逆に言えば、教員の責任は、この議論の場を提供すること、議論を通じて研究が進むようにすること、研究の進捗を確認して論文執筆が終えられるようにすることです。したがって、卒業論文を提出できるようにするためには、ゼミ活動を通じて研究を進め、研究について教員との議論を確実に行っていくことが非常に重要です。

当ゼミでは多くの場合、研究の中で何らかの制作が必要になります。制作物は一朝一夕ではできあがりません。そのために、「演習」の授業以外の時間を十分に確保してください。大切なことは、一気につくり上げようとしないことです。例えば、ソフトウェアの画面を手書きで構想したものでも最初は構いません(スケッチまたはペーパープロトタイプ)。画面遷移だけがわかる“ガワ”だけのシステムや、最低限の機能だけを実装したプログラムでも構いません(モックアップ)。物体を用いるのであれば、100円ショップで買ってきた物を繋げたような不格好なものでも構いません(試作またはプロトタイプ)。いずれにしても、アイディアを形にして他者と共有することに重きを置いて、アイディアをすぐに試せるようにしておく心がけが必要です。

研究は長期戦です。締切直前に詰め込んでも逆転はありません。普段から自分の研究テーマについて考え続け、情報収集してください。制作は少しずつでも形にしていくと良いでしょう。執筆段階であれば、前後の整合性を無視してでもとにかく書き散らすことも大切です。もし、他のことで忙しい時期には、例えばアイディア出しやソフトウェアの構想、進めていく中で足りてない知識の項目挙げなど、頭を使うだけのことをやっておくと良いでしょう。もちろん、思いついたり考えたりしたら、どこかにメモをしておいてください。

3年生から4年生にかけて、インターンや就職活動で欠席がちになる学生がいます。これに対して考えることは、「演習」は授業であり出席して当然ということです。シラバス上も欠席がない前提で進行を決めているため、1回の欠席が致命的になる可能性は十分に考えられます。出席が成績に加味されないことを以て「自由に欠席できる」と考えるなら完全に思い違いだと断じます。

ただし、実際には様々な都合で欠席せざるを得ないこともよくあり、それが理由で不都合があるとしたらあまりにも理不尽だということも分かっています。欠席すればその分のリカバリーが必要であるのは大前提として、欠席した結果生じる不都合の解消方法についての相談も兼ねて、必ず欠席する旨の連絡を事前にしてください。それがあれば、状況を勘案して次回以降の研究活動の進め方もお手伝いします。

一方で、「出席していれば単位が取れる」も間違いです。本文中に示したように、「演習」の授業は議論の時間です。議論をしない、ただいるだけの出席には何の価値もありません。授業時間外でも制作を進め、議論できるように資料を準備し、授業時間中にその資料をもとに議論する必要があります。この議論ができていること自体が論文を書き終えられる指標です。

議論の仕方

研究の議論には型があります。詳しいことはゼミの中でお伝えしますが、ここではごく簡単に説明します。研究の要素にはおおよそ、背景、動機、目的、検証方法、実施結果、考察、結論、参考文献の8要素があります。研究を進めるためには、それぞれを明確にするための議論と、それぞれの間の整合性を保つための議論が必要です。その他に、これらの全体像を決めるための方向付けの議論なども初期にはあります。このように、研究の要素に対してどのようにアプローチするかを一緒に考えるというのが研究における議論です。そのため、問い方には一定の決まりがあます。ゼミでは、教員は自身の知見をもとにその場で最適な問いを組み立てていき、学生の研究が上手く進むように議論を進めます。

ゼミにおける議論では、少なくとも2種類の議論があります。ひとつは、教員と学生の1対1のやり取りで行われるものです。戦術のように、研究を進めるための次の課題に気づいて対応してもらうことが主な目的です。もうひとつは、学生間での議論です。多くの場面が想定できますが、例えばプロジェクト的な研究であれば、特定の課題に対して意見を出し合うというのが典型的な場面でしょう。その他にも、例えばある学生の研究について、教員との1対1の議論中に別の視点を提供したり、意見を求められて答えるといったことも学生間の議論の範疇です。ゼミで個々人の研究の進捗を報告してもらうのは、単に個人面談だけでは得られない議論の共有があるからです。

資料の作成方法

資料づくりは研究の肝です。資料はひとつのところにまとめることをお勧めします。例えば、参考文献は、文献管理ツールにすべて登録しておき、実験や調査の資料は1つのフォルダにまとめておくといった感じです。資料の特性に応じてツールや保存方法は使い分けて構いませんが、いずれにしても資料が整理されている必要があります。

もうひとつ重要なことは、過去のものを捨てないということです。特にデジタルデータの場合、上書きや修正が容易で、作業前のデータが消えてしまうこともあります。意図的でないにせよ、以前あった情報を失ってしまうことに他なりません。

文書(報告書やワークシートなど)の場合なら、報告ごとに別ファイルとして残すのが良いでしょう。データであれば、別のファイルとして過去のものは残してください。別ファイルとして保存するには、例えばファイル名に日時情報を付加するのが簡単な方法です。プログラムコードであれば、大幅な変更を加える前に以前のプログラムファイルを待避させることも考えられますが、スマートな方法はバージョン管理システムを使うことです。例えばGitHubがその代表です。

一方で資料をつくる種は、ゼミ時間外にあります。先述したように、日々の生活でふと思いついたことをメモし、制作などを進めたらそれを保存し、なんらかの文章を書き残していきます。とにかく、そういった「やったこと」を残していくことが大切です。そのときに大切なのは、「やったこと」は文章で残すことです。片言でも構いません。しかし、単語の羅列では駄目です。文章として残してください。文章をたくさん残していくことが研究の各段階で活きます。

進捗報告のためには、そういった残してある文章から切り貼りし、口頭でもそれに基づいて説明すればよいでしょう。制作物であれば最新版を見せればよいでしょうし、以前との差分を求められたらその場ですぐに過去のものを取り出せます。

論文執筆では、同様に文章の切り貼りをしていくと楽に出来上がりイメージが作れます。特に論文執筆においては、皆さんに配布する論文作成ワークシートは有用です。研究の要素をこのワークシートにまとめておくと、その要素の切り貼りで論文の外形がつくれるようになっています。研究の進捗に応じて更新していくと、最後の執筆がスピードアップできるはずです。

論文と制作の関係

制作が不要な分野もありますが、ものづくりや情報の分野ではほぼ必須と言えます。先述した研究の要素の中で、「検証方法」の部分で制作物を使うことになります。分かりやすい例で言えば、何らかの問題解決の方策としてつくったシステムの有用性を検証するためにどのように確認するかが「検証方法」です。また、例えば新しい計測方法(分析方法)を思いついたとしたら、それで対象を計測(分析)したときに期待どおりにできたかを確認するのが「検証方法」です。その検証方法によって得られたデータが「実施結果」です。

このように、研究の中心を担うのが制作物です。つまり、この分野の研究では「つくったら終わり」とはいきません。つくったものが「目的」に合ったものかを検証して、その結果から期待通りだった(期待通りでなかった)ことを「考察」するプロセスが待っています。

したがって、制作物がなければ論文は書けず、各自の研究テーマについて深く検討しなければ制作物がつくれないということになります。そのためにも、どんどん試行錯誤してつくってみることを期待しています。これが「当ゼミに所属する学生に期待すること」でトップに試行錯誤を挙げた理由です。